バーティカルからホリゾンタルへ。インサイドセールスを「戦略ゲーム」として紐解くキャリア論
インタビュー2026.07.07

バーティカルからホリゾンタルへ。インサイドセールスを「戦略ゲーム」として紐解くキャリア論

「インサイドセールス(IS)」という職種は、SaaSスタートアップでのキャリアの入口になりやすい。

一方でハイパフォーマーはどんなマインドやスタンスでやっているのか、過去、どんな苦難があり、どう乗り越えてきたのか、の解像度は低いままの人も多いのが実情だ。

今回話を聞いたM.Sさんは、建設業界向けのバーティカルSaaSと、バックオフィス系のホリゾンタルSaaSの両方でISとして高い実績を残してきた。両者の違い、挫折の乗り越え方、これからIS職に挑む人へのアドバイスまで、率直に語ってもらった。

困難を乗り越える「マインドセット」

—— 本日はよろしくお願いします。まずはM.Sさんのこれまでのキャリアの変遷について教えていただけますでしょうか。SaaS業界に入る前は、どのようなお仕事をされていたのですか?

M.Sさん: 新卒ではオーダーメイドのフルスクラッチシステムを開発する企業に入社し、営業を経験しました。その後、旅行に興味があったこともあり、旅行予約の比較サイトを運営する企業へ転職しました。そこでは、営業活動の9割は既存顧客向けのルート営業でしたね。

—— そこからSaaS業界、特に「建設系SaaS」という領域へISとして飛び込んだのはなぜでしょうか?

M.Sさん: 「事業内容の面白さ」を重視して転職活動をしていました。建設業界という巨大な産業をDXで変革していくという、その「難易度の高さ」にとても魅力を感じたんです。また、ISという職種も最初はエージェントからの紹介で知ったのですが、それ以前にもテレアポや飛び込みはやっていたので、それに特化した仕事が面白そうと思ったのが、ISとしての入社のきっかけとなります。

—— 今では営業職の中でも、特にインサイドセールス(IS)という職種に強いこだわりをお持ちだと伺っています。

M.Sさん: 実際にやってみると、自分の適性に非常に合っていると感じました。顧客ごとに仮説を立て、戦略を練り、フィールドセールス(FS)と連携しながら案件を前に進める。司令塔としての役割を意識しながら、時には経営を巻き込み、攻略を進めていく一連のプロセスに「ゲーム性」のような面白さを感じています。

また、リモートの環境でも働きやすく、柔軟性のある働き方ができる点も気に入っています。

—— SaaS業界、IS職ともに未経験でのご転職だったと思いますが、困難などはありましたでしょうか。

M.Sさん: IS職として入社後、まずはSMBチームへの配属となりました。そこでは問題なく、初月から連続で目標を達成することができ、成果を出せていたかと思います。しかしその後、大手チームに異動となったのですが、半年間ほとんどアポイントが取れずに苦しみました。アポイントが取れないから、FSの受注件数も伸びない。結果的に、メンタルが不調に陥った時期がありました。

そもそも接続できない、接続しても何度も断られる、そして成果が出ないから仕事が面白くない……これがメンタル不調の根本的な要因でした。

—— 転職や異動後の新しい環境で壁にぶつかる方も多いと思います。M.Sさんは、その苦境をどうやって乗り越えられたのでしょうか?

M.Sさん: 当時の新しい上司の言葉に救われました。「アポイントは受注につながるものだけが価値じゃない。情報交換だけでも価値のあるアポイントだ」と、成果の定義を変えてくれたんです。それで一気に吹っ切れました。

また、そのタイミングでKPIや目標が変わったことも大きかったと思います。それまでは「アポの獲得数」だけを指標として追っていましたが、商談の実施数や、FSへトスアップした商談がどれだけのパイプラインを生み出しているのか、アポイントの「質」を追う指標に変わりました。

それが、自分もFSの視点を持つきっかけになりました。自分なりにお客様の組織図を調べたり、自ら獲得したアポイントについて、FSに対して「こういう仮説を持っているから、こう提案してほしい」と、オーナーシップを持って動けるようになりました。

—— M.Sさんにとっても、大きなキャリアの転換点だったのですね。

M.Sさん: はい。今までのキャリアの中で敢えて1つだけ挙げるとすると、この経験が今の自分のキャリアの基礎になっていると思っています。実際に、半年間ほとんど成果が出せずに苦しんでいたのですが、それをきっかけに、その後1年間、目標をオール達成し、四半期ごとの表彰も計4回獲得することができました。

バーティカルSaaS企業とホリゾンタルSaaS企業の違い

—— 建設系SaaSでご活躍された後、バックオフィス系のホリゾンタルSaaS企業へ転職されています。この時のキャリアの意図を教えてください。

M.Sさん: 建設系SaaS企業での仕事もやりがいはありましたが、自分の中で「より大規模なエンタープライズ層へアプローチしたい」という目標が明確になってきました。また、SDR(反響型インサイドセールス)としてのスキルも磨きたかったため、バックオフィス系のホリゾンタルSaaSへの転職を決断しました。

—— 建設系SaaSでIS職を経験されてきた中で、バックフィス系のホリゾンタルSaaSの環境でのお仕事はどのように感じられましたか。

M.Sさん: そこの企業ではリストの数が多く、PDCAサイクルが回しやすいと感じました。また、過去の問い合わせリードもリストに含まれており、フックがある状態からアプローチすることができました。リードソースの質と量に恵まれているため、個人の成果のばらつきが少なく、組織全体として目標を達成しやすい環境だと感じました。加えて、プロダクトの機能差以上に「会社のネームバリュー」が効いている点も大きいと実感しました。

逆に、建設系のSaaS企業に在職していた際は、ターゲットとなる母数が限られていたため、1社1社への「深い入り込み」が求められました。事前のリサーチや戦略立案の難易度が非常に高いですが、その分、攻略性を楽しめる面白さがありました。

—— 企業やチームによっても色が異なると思うので、一概に対比は難しいと思いますが、これからAI SaaS企業のIS職へ挑戦したい方がいたら、どちらをおすすめしたいですか?

M.Sさん: 難しいですね。正直、人によって異なると思います。個人的には、初めてスタートアップに挑戦するなら、あえて難易度の高い「バーティカルSaaS」から始めることをおすすめするかもしれません。そこで成果を出せるだけの力がつけば、今後どのような環境に行っても通用するからです。

ただ、1点気をつけたいのは、成果が出ないとメンタルにくる時もあるので、自分の適性を見ながら選択することをおすすめしたいです。

メンタルにくる最も大きな要因は、BDR主体の場合、そもそもの接続が難しかったり、接続したとしてもアポを断られることも多く、否定される回数が多いことです。加えて成果も出ないので、仕事もつまらなくなる。

そのため、「何で成果が出ないんだっけ?」「どうやって接続率を上げるんだっけ?」「どうやったらアポが取れるんだっけ?」「アポが取れる人はどういうトークをしているんだっけ?」など、内省できる方は問題ないと思うんですけど、一辺倒にアプローチをして、断られて終わってしまう人だと難しいと思います。

まだ自分の力に自信がない方の場合は、まずは成果の出やすい環境から挑戦してみることをおすすめしたいです。

IS職としてのキャリア開発と、面接での見極め

—— 様々な企業で活躍されていたと思うのですが、マネジメントへのチャレンジや、他職種へのキャリアチェンジは考えましたか。

M.Sさん: 当初はマネジメント職に興味がありました。実際に、建設系SaaS企業では、リーダー職を経験したのですが、自分としては、プレイヤーとしての仕事の方が面白みを感じ、スペシャリストを志すようになりました。

建設系SaaSの企業でも、バックオフィス系SaaS企業でもキャリアオプションの幅が広く、どちらの企業でも様々なポジションに挑戦できる機会は整っていると感じました。

—— ありがとうございます。これから、実際にIS職への転職の際に、避けておきたいスタンスやマインドはありますか?

M.Sさん: 3つあると思います。1つは、成果を出している人を模倣できないこと。2つ目は、目先の目標だけを追ってしまうこと——FSの受注視点を持てないと、たぶん楽しめないと思います。3つ目は、必要な活動量を担保できないこと。スタートアップだと特にきついと思います。

—— 自分の成功体験に固執しないことや、まずは量を追うことは大事ですね。最後に、自分がIS職として転職するなら「ここは必ず確認する」というポイントを教えてください。

M.Sさん: 転職活動の際は、その組織が掲げる「目標やKPI」と、実際の「達成・未達成の割合」を必ず確認したほうがいいですね。

実際に、達成している人の割合が少ない組織だと、業務の難易度が高いのだろうと推察できますし、逆に達成者の割合が高い組織の場合は、自分の実体験からも、BDRだけでなく一部SDR業務も兼務しながらの動き方になるのか、などの業務やミッションのイメージがつきやすいと思います。

—— ありがとうございました。

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